Story
九谷焼の販売/体験施設の増改築によるリニューアル工事です。
明暦元年(1655)から脈々と育まれてきた九谷焼文化を、体験・発信していくことのできる施設として、南加賀の観光産業の拠点として、そして地域の方々が気軽に訪れることのできる交流地点としての施設のあり方が求められました。
その上で、元ある建物の蓄積を踏襲しながらも、新たな構成をもって、明るく活力ある建物を目指し計画を行っていきました。
「花坂陶石」について
九谷焼の主要な産地である加賀地区は、豊かな地下資源を有し、古くから石によるモノづくりが行われてきた地域です。
その礎は、2000万年前の地殻変動により日本海側の火山活動が活発化したことで、さまざまな地下資源が生み出されたこととされています。
この地下資源をもって、九谷焼は生成され受け継がれてきました。
その中で、九谷焼の原料として使われているのは「花坂陶石」と呼ばれる石材です。
江戸時代後期に小松市花坂地区で鉱脈が発見されて以降、現在も採掘され続けている希少な陶石です。
「花坂陶石」の特性を施設計画に
九谷焼の原料になる花坂陶石も質の良いものと悪いものがあります。その違いは風化が進んでいるかどうか。風化が進んでいるものは質が良く、柔らかくて、手で簡単に崩すことができます。逆に、風化が進んでいないものは硬い。九谷焼は、そんな繊細な素材の結晶から生まれた文化なのです。
その繊細さを建物計画に取り入れようと考えていきました。
塊としてではなく、パラパラとした素材感・質感を大切に。
ファサードについて
大きな建物を軽やかに表現するために約80mに及ぶルーバーの壁面を設置しています。
既存のボリュームを覆い包むように、パラパラと。
このルーバーの色彩は「花坂陶石」の色合いから抽出したもの。
この細やかな縦ルーバーによって、見る角度、時間、天候等によってファサードの表情が繊細に揺らぎ続けます。
内部計画について
元ある建物の内部空間は、どこか雑多で、薄暗さを感じるものでした。
その空間に、できる限り明るい光を取り込むと同時に、自由さと統一性を持たせ、空間を整えていきました。
主な機能としては、店舗、カフェ、ろくろ・絵付け体験コーナー。
これらの機能が、緩やかに繋がっていく空間構成としています。
天井に設置したパラパラとした木ルーバーの下、常に木陰の下にいるような居心地の良い空間を目指しています。
窓辺のカフェ。常に明るい光に満ちる。左に見えるのは花坂陶石を練り込んだ左官仕上げの厨房。
絵付け体験コーナー。奥に見えるのが実際の九谷焼の工房と窯場。常に実際の作業風景を望むことができる。
天井に設置したトップライトからは木漏れ日のように光が落ちる。
ろくろコーナーから絵付け体験コーナー、工房を望む。
Photo by Takashi Mukai
Photo by Kazuto Nishi